トップ
プロジェクト概要
企業家ライブラリー
企業家コラム
プロジェクト実施体制
プロジェクト活用科目
ケース・ダウンロード
 
シンポジウムレポート1


 私が中小企業者のオーラル・ヒストリーを始めたきっかけは、自動車産業に関わる研究の中で、日本における自動車産業の多層的サプライヤーシステムに問題意識を感じたことにあります。そこから、中小企業を創業した方が、自動車産業の二次サプライヤーにどのようにして成長していくのかというプロセスに興味を持つようになりました。そこでまず、二次サプライヤーと言われている企業にアンケート調査をしました。その中から5社にインタビューを行いましたが、そのうちの1社が非常に気になり、その創業者にインタビュー行うことができました。それが、サンキ工業株式会社です。
  オーラル・ヒストリーがうまくいくかどうかの最大のポイントは、どうやって門戸を開いてもらって、お話しを伺いに上がれるところまで辿り着くかにあります。サンキ工業の場合も、最初は息子さんの加藤博康氏(現社長)にアプローチし、通い詰めた結果、やっとで創業者である加藤均氏(現会長)のインタビューが取れました。
  サンキ工業は、愛知県の資本金1000万円、従業員62名の中小企業。主な生産品目は自動車エンジンの排気管であるパイプ部品です。金属プレス部品の一次サプライヤーであるフタバ産業から正式な発注がある前にアイデアの段階で図面を受け取り、部品設計の改善提案を行うという形で開発過程に参画しています。
  加藤均氏へのインタビューを通じて、次のことが明らかになりました。均氏は戦前名古屋で生まれ、勤労奉仕での工場体験と町工場での修業後、1961年に独立して、自転車部品やパチンコ機械の部品を扱う会社を創業しました。その後、フタバ産業とゼロックスの蝶番の受注から取引がはじまり、アメリカ向けの自転車用ブレーキの製造、そして、取引先の開発をしながら、自動車部品に入っていきます。その後、利益率の高い自動車部品の試作・開発機能の強化を図り、マシニングセンターやレーザー加工機、3次元のCAD/CAMを導入するなど、息子の博康氏が跡を継ぎやすいように会社の設備を変えていきました。長年の技術の蓄積と最新の設備機械への集中投資、創業者・均氏の息子への事業の継承という強い意志、そして、後継者である博康氏がその考え方を共有して技術習得の努力を行うと共にさらに一次サプライヤーに対して積極的なアプローチを行ったことが、サンキ工場を町工場から開発能力をもつ二次サプライヤーに発展させた要因であると考えることができます。
  このサンキ工業のケースでは、アンケート調査やその他の文献調査とこのオーラル・ヒストリーを組み合わせることによって、冒頭の問題意識をビビッドに描けたのではないかと思います。そういう意味では、オーラル・ヒストリーは大変な有効な手段であると考えます。

▲上へ戻る
PREV NEXT