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 今日は企業家のオーラル・ヒストリー(仕事の自分史)を使って、企業・組織の内面的な戦略、具体的には、企業組織の構想や従業員教育をどのように考えるかについて考えてみます。私はこのオーラル・ヒストリーを辿るうちに、企業の内面的戦略に関わる3つの作業仮説を導きました。第1は、戦後日本経済において品質管理(QC)の思想と実践が非常に大事だったのではないか、第2は、量産体制を始める以前から品質改善や品質管理というトータル・クオリティ・コントロール(TQC)の重要性を認識していたのではないか、第3は、優秀な品質管理の成果に与えられるデミング賞を受け取ることが、管理者層の意識改革に役立ったのではないか。その事例をご紹介します。

トヨタ自工の事例
  トヨタ自工(現トヨタ自動車)の熊本祐三氏のオーラル・ヒストリー記録によると、QCの導入は豊田英二氏の危機意識に基づいていました。経済・貿易・資本の自由化により経営の国際環境が変わる環境に対応するため品質管理の思想を導入・実践し、その思想が根付いてから量産体制に入っていきました。大野耐一氏がリードした、かの有名なトヨタ生産方式は、(1)標準作業、(2)後行程引き取り、(3)ジャスト・イン・タイム、(4)一個流しと平準化、(5)目で見る管理、(6)止めるラインという6つの要素から成り立っていますが、熊本氏のオーラルを通じて、実際に工場で実践されている生産管理の実態がよく理解できました。
  同じくトヨタ自工の池渕浩介氏からは、工場の組織がマトリックス状態になっていることを教えられました。様々な車種のラインを縦軸とすると、横軸として共通に必要な生産管理・生産工程管理の原則がある。すると、縦軸は生産がスムースに行くよう考えて行動しているのに、横軸はそれではいけないと、こうやった方がいいとか言って、摩擦や議論が巻き起こるそうです。しかし、そういう摩擦が生じることによって、改善が起きたり、摩擦の対処法で工夫できると言います。色々な違うタイプの思想をわざと入り交え、同時に実践する組織、あるいは人的構造を埋め込んでいる組織というのを、オーラル・ヒストリーを通じて発見しました。

土光敏光氏の事例
  石川島播磨の鋳物技術者の瀧勇氏からは、土光敏光氏から、異なる部署同士の情報交換の必要性、他の部署の事情をよく知った上で生産計画を作る思想を学んだという話を伺いました。土光氏は現場を観察し、探索し、よく考え、その上で設計をされたそうです。組織構造の話ではありませんが、マトリックス型組織のアイデアと相通じるところがあります。

住友電工での技術情報の交換と共有
  住友電工の中原恒雄氏は、現場が生産の実態を一番よく知っているのだから、現場が提案して改善を行う、あるいは、生産管理方法の修正を行うと言います。彼によれば、第二次大戦後、デミングの思想を初めて実践し品質管理の重要性を認識して導入したのは住友電工が最初だそうです。また、上下、左右、斜め飛び越しの報告が社内で自由に行われるのが住友電工の伝統だそうです。

 以上のオーラル・ヒストリーから得た発見は、トップ・マネジメントの危機感(一種の不安感)が品質管理や生産管理の改革につながったという事実です。また、組織の構造や経営者の行為を介在して、企業体内部で異種交流とそれに起因する適度の社会的緊張がある時に、企業の活性化(改革と飛躍)が生まれたように思われます。

「レゴの世界」対「相乗りの世界」
  国際比較の視点から整理してみると、アメリカと日本の現場組織は、欧米流のレゴの世界と日本的な相乗り型の世界という比較ができます。レゴの世界は単体であるものを隙間なく組み合わせて総合的に全体が作られるという想定。相乗り型世界はセットとセットがジョイントになっている。要するに、アメリカ型組織では技術者と現場の人は交流することがないが、日本の場合は交流することを奨励するという特徴があります。日本鋼管の奥田健二氏はレゴの世界は「二分法」、相乗り型は「相補性」の思想であると表現されおり、現場の組織、そこで働く人の働き方を考えるとき、欧米と日本ではこういう異なる特徴があると言われています。この対比は、企業文化を超えて社会文化の違いと言うところまで一般化できるかもしれません。

 以上のオーラルから出てきた含意は何でしょうか。日本企業の内部的戦略・政策結果から出てきたマトリックス型組織や品質改良の背景には、雇用の長期安定的システムがあります。しかし、最近のように革新の速度が非常に速いITの世界、海外での事業展開においては、従来の日本的な現場のやり方、組織、従業員教育は通用しない面も出て来るでしょう。斬新な工夫と飛躍のための戦略が必要です。現代の経済は、技術と体制の革新によって克服されるべき「新しい不安」を日本の企業人に提示しているのだと思います。

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